中道通りを一度出て、再び車の往来の激しい吉祥寺通りに出ると伸は今度は駅から離れ始めた。駅周辺の賑わいから少しずつ遠ざかり、比例するように華やかな商業店舗も人通りも少なくなる。やがて豊かな緑が目に入るようになると、伸は閉園間際の井の頭動物園に入った。半歩後ろを歩く当麻の存在のことなど忘れているように、伸は湛然に動物を一匹一匹観察しながら動物園を一周すると、今度は吉祥寺通りを挟んで反対側の武蔵野の雑木林の小道へと歩みを向けた。
夏の濃い緑をたくわえた木々の下は街の中よりも幾分かひんやりとしていた。勢い良く伸びた枝葉に日射しは遮られうすぼんやりと暗い。さきほどまでの喧騒が嘘のように静まり返り、植物の呼吸するひそやかな音だけが空気を満たしていた。伸は緑をそよがせる風のようにしなやかに木々の間を通り過ぎて、それから小さな競技場を半周して井の頭池に向かった。その間に音もたてず夕闇が訪れやがて空の色は青から紺へと変わり夏の星がちらちらと瞬き始めた。
「なあ、伸。」
井の頭池の西の端にある弁財天を通り過ぎるころ、当麻は不思議なことに気づいた。
「なんだかこう、いつもと公園の様子が違うと思わないか? 人が少ないっていうか……俺たち以外、いる気配がないぞ?」
「そうだね。」
振り返らず伸は答え、当麻の半歩前をすたすたと歩く。いまや宵闇は夜へと移り黒々とした桜の木々の幹や枝が闇に蠢く生き物の手足のように夜空へと伸びていた。どこからかかすかに潮の香りがただよってくる。
桜並木の下、池の北側を伸は足早に歩く。当麻にはすでに伸の黒い背中しか見えない。夜の闇に包まれて、伸の後ろ姿は本当に彼なのかどうかわからないくらいに夜闇にとけ込んでいた。奇妙だと思った。その違和感の理由に当麻は気づいた。ふと見上げた空に直立している街灯に明かりが灯っていない。既視感、というものに近かった。青梅の事件のときにクロに連れて来られた井の頭公園もこんな風に人の気配がなかった。
やがて伸は、墨汁を溜めたような井の頭池に架かる橋の手前で足を止めた。半歩遅れて当麻は動きを止める。
「伸、どうした?」
その言葉に応えるようにあらゆることが一度に起きた。
モノクロームの風景の中、暗い灰色に沈んでいた七井橋が淡い黄金に輝き始めた。潮の香を含んだ生ぬるい夏の風が鈍い足取りで公園の黒々とした木々をさらい枝や葉を揺らした。ざわざわとこすれ合う葉の音は夜を生きる人にあらざるものがそこら中に潜んでいるようにも聞こえる。
「当麻。」
伸が振り返った。モノクロームの風景の中、伸だけが色をまとっていた。薄茶の髪、碧い目、ほの白い頬、麻のジャケット、濃い青のデニムのジーンズ。その姿は世界から切り離されたように浮かび上がっている。
「今からこの橋を渡るよ。僕についてきて。渡るあいだは絶対に振り向いちゃだめだ。分かったかい?」
「おい、伸。一体これは何のつもりだ?」
「儀式だよ。」
躊躇わず答えて伸は橋を渡り始めた。当麻はわずかの間、離れて行く伸の背中を見て両の拳を爪痕が残るくらいに堅く握りしめてあとを追った。
二人が橋を渡り終えると、扉が閉じるように橋の光がおさまった。一呼吸する間もなく、公園の景色は鈍い黒と灰色のグラデーションに戻る。人影も街灯の光もない黒々と濡れた世界。むせるほどの潮香に包まれた世界。異界といっても過言ではなかった。
伸はブランコの前で足を止めると、一度、空を見上げてから小さな木製の座板に腰を下ろした。鎖に腕を絡ませて、当麻の方に体を向ける。
「ありがとう、我がままにつきあってくれて。」
「伸、お前何考えてるんだ? 一体、ここはどこなんだ?」
「ここは僕がつくった結界なんだよ。君と最後に二人っきりになるための結界だ。誰もここに入ってくることは出来ない。ここで起きたことは誰にも知られない。」
「もしかして、今日、街を歩いていたのは……」
思いついたように当麻が言うと、暗闇の中、伸がかすかに笑う気配がした。
「そう。いくつもの辻や角を曲がっただろう? 人の力の籠った場所を、決まった法則に従って歩くとできる結界だよ。そして七井橋が仕上げだ。僕たちは今、現実とは違う層にいる。」
相変わらず、伸だけが異界の闇の中、淡い色を帯びて浮かび上がっている。
「最後に二人っきりになるって、どういう意味なんだ。」
ブランコに座った伸の前に立ち、当麻が上から覗き込むと、伸はおよそ人間とは思えない妖艶な笑みを口の端に溜めて当麻を見上げた。
「言葉のとおりだよ。」
口調の強さに当麻は抗うことを諦め、覚悟を決めて隣のブランコの座板に腰掛けた。
「簡単な話を聞いて欲しいんだ。」
伸はふわり、と足を蹴ってゆるやかにブランコをこいだ。不思議なことにブランコの軋む音はせず、まるで伸が夜の底を泳いでいるように見えた。
ブランコを止めて、伸は当麻の方を向いた。笑っていた。
「もう僕にやさしくしないで欲しいんだ。」
「何の話だ?」
当麻が怪訝そうに聞き返すと、伸は笑みを消した。
「はっきり言うとね。僕は君をしあわせにできないんだよ。少なくとも、君の望むしあわせを、僕は君にあげられない。」
永遠を一瞬に閉じ込めたような沈黙が二人に訪れて、去った。
「さっきも君は言ったよね。自分が気づかない想いを、僕は気づいているって。そうだ、その通りだ。僕は君が何を望んでいるか分かるんだ。だから君が無意識にそれを求めて、その代償に僕にやさしくしてくれることが、もう重いんだ。辛いんだよ。だって僕は、君の望むしあわせをあげられないんだから。」
「……代償、だと?」
当麻は伸の言うことをにわかに理解することができず、ただその言葉だけが頭に突き刺さり、無意識に繰り返した。
「だから、もう、僕の手を離してくれないかい?」
ざあっと潮風が渦巻き木々を揺らした。風は当麻の頬をなでて公園の外へ吹き抜けた。伸を縁取る淡い光の輪郭が時の間、滲むように闇にぼやけた。
「君はこの事件で、たくさんの文献を調べたり、あちこち出向いてくれてるよね。もちろんそれは仲間のためでもあるんだろうけど、僕のためでもあるんだろう? でも、だめなんだよ、君には僕は救えない。むしろ、僕は君がいるからこんなに辛い。君のせいでしあわせになれないんだ。」
それから一旦、言葉を切って、伸は正面を向いた。
「君がいるから僕はしあわせになれない。」
それは確かに当麻に向けられたものだったが、当麻はその口調に喉に魚の小骨がひっかかるような小さな痛みを感じた。自分自身に向けられているというよりも、伸自身が自分に言い聞かせているような、そんな言葉の響きがあった。
「わかった。俺がお前をしあわせにできないと、お前がそう思っていることはとりあえず心に留めておく。だいたい、俺自身、誰かをしあわせにできるなんて思い上がっているつもりはなかった。それでもただ、お前を守りたかった。これからも守りたい。それじゃだめなのか?」
「話を振り出しに戻さないで欲しい。やさしくしないで欲しいって、言っただろう?」
「じゃあ俺はどうすればいい?」
「僕から離れることだ。」
再び伸は当麻の方に体をよじって、鎖に腕を絡めたまま目を細めて睨み据えた。感情の伺えなかったほの白い顔に抗議の色が浮かぶ。
「納得がいかないな。お前はいつも、こういう時は何か抱え込んで一人でなんとかしようとしているんだ。訳もあるだろうから話せとはいわない。ただ、その荷物を半分、抱えるくらいのことを俺はできないのか? その資格は俺にはないのか?」
「だから、そういう君のやさしさが、僕を苦しめているって気づけよ!」
伸は声を張り上げてブランコの座板から立ち上がった。まとっていた淡い光がふくれあがりあたりの闇を照らし出す。風もないのにやわらかな薄茶色の髪がゆらりと揺れて、宙に踊った。
「当麻は誤解してるんだ。僕のことを面倒見がいいとか、やさしいとかそんな風に思っているだろう? 人のために自分を犠牲にできる人間だって。人のため……そう、人の為って書いて『偽』って書くだろう。僕はからっぽなんだ。だから他人に偽りの笑顔とやさしさでをふりまくことで自分のからっぽを埋めてきた。これからもそうだ。君も僕の偽りのやさしさに騙されているんだって気づきなよ。気づいて、呆れて、軽蔑して、僕から離れていきなよ。離れてけよ!」
海が荒れている。
嘆きなのか怒りなのか判別しがたい声をあげる伸を冷静に観察しながら当麻はそんなことを思った。そしてうっすらと、PARCOの前で伸が見せた涙の理由が分かったような気がした。
「伸、何に追いつめられているかまだ俺にははっきりとはわからないが、自分を貶めることだけはよせ。俺以外の、遼たちや、お前に助けられて来た多くの人間のためにな。お前のそのやさしさが、十年前、俺たちの緩和剤になったのは事実だ。お前がいなければ俺たちはあの戦いで生き残れなかったかもしれない。その事実を否定するな。自分を否定するな。やさしさが偽物かどうかなんて、お前自身が決めることじゃない。受けとる側が感じることじゃないのか。それによって引き起こされた結果によって真偽が決まることじゃないのか。」
「君の屁理屈にはもう付き合ってられないよ! 本当はもう分かっているんだろう! 僕がどうしたいか!」
当麻は瞼を閉じて、しばらくの間、何かを考えるような間を置いたあと、伸に顔を向けた。
「……俺にできることは、本当にないのか。」
「ないね。」
揺るぎのない当麻の視線を怖れるように伸は顔を背け、公園の奥の茫洋と広がる濡れた暗闇をじっと見つめてから、一歩、二歩を足を踏み出した。
「おい、伸、どこへ……」
ブランコから立ち上がり、当麻はじわりじわりと遠くなる伸の背中に声をかけた。
「着いてくるな!」
悲鳴にも似た伸の声が闇を切り裂く。当麻の方を振り向き、緩慢な動作で右手を麻のジャケットの内ポケットに差し込んで、そこから細長いものを取り出した。先端が、伸の身体が放つ光に照らされてぎらりと光る。
「おい、伸、お前それ、カッター……どうするつもりだ!」
「君がこれ以上僕に近づいたら……」
見せつけるようなゆっくりとした動作で、伸は鈍く光る刃を己の細い首筋に当てた。手がかすかに震えている。
「今ここで死ぬから。」
震えているのは手だけではなかった。掠れかけの声が小刻みに揺らいでいる。
けれどもその面には、静かで透徹とした覚悟が浮かび、そして不思議なことに穏やかに凪いでいた。
当麻は呼吸も瞬きも忘れて、心も命もなにもかも吸い込んでしまいそうな濃密な闇に浮かび上がる伸を見つめていた。下唇を強く噛み締め、全てを抱え込む決意を全身で示す姿を目に焼き付け、自分を拒んだ言葉すべてを頭の中で反芻し、あらゆる解決策を頭の中でシミュレーションし、そして瞼を閉じた。堅くふさがれてしまった伸の心の扉を開ける鍵は見つからなかった。
沈黙が静けさにとってかわり、伸のまとう光が収まる。
やがて伸は闇を飲み込んだ静寂そのもののようにひそやかに当麻に背を向けて、黒々としたの異界にかき抱かれさらわれるように姿を消した。
1ミリも動くことも出来ず、ブランコの前で立ち尽くしたまま、当麻は潮の香りがひいてゆくのを感じていた。
街灯に灯りがともり、晩夏を楽しむカップルの姿があちらこちらに見え始めて、当麻はようやく大きく息をついた。密度の高い闇が編み上げた潮の香り満ちた異界は消え失せて現実に戻ることができたのだという安堵は全くなかった。
刃を己の首筋に当てて、大きな覚悟をしてしまった伸の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
「俺は結局……守る資格すらないのか。」
「そんなことはないぞ。」
呟くような独り言に返事が返ってきて、当麻は驚いて背後を振り返った。光彩をまっすぐ縦に黒く過る異形の目とぶつかる。
「……クロ。」
「伸は大丈夫だ。本気で死ぬつもりもないし、ちゃんと明日の祭祀にも出る。」
「そりゃ、分かってる……つもりだ。」
当麻はあらためてクロの姿を眺めた。小さな体を縁取るようにふわりふわりと蛍火が漂っている。当麻に常に向けている無愛想な表情も、子どもの姿をしながらどこか見下したような口調もいつもと何ら変わりはない。ただ、言葉にできない微細な雰囲気が違っていた。
「クロ、お前は伸がどうするつもりなのか知っているのか?」
「さあな。仮に知っていたとしても言えないな。」
「どうしてだ?」
「今の俺は伸の眷属のようなものだからさ。伸が直接お前に言わないのであれば、俺から言えることはない。」
「伸の眷属?」
当麻はクロに一歩近寄り、その顔を覗き込んだ。
「眷属というのは一般的に神の使いという意味だったはすだが……どういうことだ?」
質問を小馬鹿にするように鼻先で笑ってクロは答えた。
「そもそも俺が、この姿をしていることに疑問はなかったか?」
「なるほど。お前、最初俺たちの前に姿を見せたとき、小さな狐だったよな?」
「そうだ。それが俺の本来の姿だ。だからこの姿は、伸の想いの海から生まれた幻想にすぎない。イメージしたんだ、伸が。自分で抱き締めて守れるような小さな存在が欲しいと。それがこの姿というわけだ。」
クロは自分の左手を珍しいものでも見るようにじっと眺めた。
「……短い間だったが、人の姿というのも悪くはなかったな。」
口の中で味わって舌先でころがすようにそう言ったクロは、当麻を睨みつけた。
「腹の立つことだが、お前くらい現実を見ている奴が伸のそばにいた方がいいと今は思える。伸は見えない世界に心を砕きすぎて、現実に存在する自分のことを顧みないところがあぶなっかしいからな。」
「つまりそれは……俺にまだ伸を守る資格があると、少なくとも伸の眷属であるお前はそう思っているととっていいんだな?」
クロは細い腕を組んで当麻に問うた。
「お前と伸の決定的な違いはなんだと思う?」
「違い?」
当麻は宙空に答えを探すように視線を泳がせた。軽く頭を振って、再びクロを見る。
「言っている意味がわからないな。そもそも人間は個体すべてがそれぞれの個性を持っているという点で、『皆、違っている』。伸と俺が違うのであれば、伸と遼も、伸と秀も、伸と征士も、それぞれ違う。」
「いや、少なくとも、征士、あれは伸の同類とまではいかなくても近い力を持っている。」
「……征士、だと?」
意外な人物の名に当麻の声が裏返る。
クロは右手の人差し指で夏の夜空を指差した。
「お前には何が見える?」
促された視界の先には夏の夜空が広がっている。紺色の絨毯にまたたく星は暑さのせいかどこか気怠げだ。
「デネブ、ベガ、アルタイル。東の空には秋の星も見え始めている。」
「それがお前と伸の決定的な違いだ。朝のあれは、お前には効き目がなかったか。それとも受けとるつもりもなかったのか……」
「朝のあれ? いなり寿司か?」
頭を下げて当麻は首を傾げる。クロが小さく溜め息をついて夜空を差していた指を当麻の右胸の上に当てた。細い指の爪先にほわり、と光が宿る。徐々に光は明るさを増してふくらみ、ピンポン玉くらいの大きさになるとすっと当麻の胸の中に入って消えた。
「なっ……」
当麻が一歩、後ろに飛び下がる。クロは口元だけで笑って再び上を指差した。
「もう一度聞く。今のお前には、何が見える?」
そろそろと首を持ち上げて当麻は夜空を見上げた。そのつもりだった。しかしそこには夜空はなかった。どろどろとヘドロのように分厚い流れが、空を星を覆い隠している。それに気づいた途端、周囲からむっと腐った肉を思わせる匂いがただよってきた。あちらこちらで人にあらざるものがささめきあう声が聞こえる。大気には黒く細かい塵のようなものがあちこちに舞い散り、思わず息を呑み込んだ当麻の肺を侵した。
穢れ。
咳き込む当麻の脳裏にその二文字が浮かぶ。
「それが伸の見ている世界だ。」
近くにいるはずのクロの声が遠くに聞こえる。朦朧とする意識の中、当麻は何度も見た苦しげな伸の顔を思い浮かべた。
「どうすれば……伸をここから……連れ出せる?」
息がままならず、途切れ途切れに当麻はクロに尋ねた。
「初めてではないだろう? 思い出せ。自分の力を。大祓のとき、お前は何をした?」
「おお……はらえ?」
地面を向いて、必死に吐き気を押さえながら混濁する意識を繋ぎ止め、当麻は紗がかかったような記憶を思い出す。古い祝詞の言葉の羅列が閃光のごとく脳裏にひらめいた。
……科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧夕の御霧を朝風夕風の吹き掃ふ事の如く……遺る罪は在らじと祓へ給ひ清め給ふ事を……
戦うのではない。守るための風の力。
途端、右太腿に熱を感じた。ジーンズのポケットに手を突っ込んで鎧玉を取り出す。強く弱く、宇宙の色が明滅している。
当麻は鎧玉を手にイメージする。
自分を侵す穢れを吹き払う、おおらかな風を。
宇宙と同時に生まれ宇宙の終わりまで吹き続ける、死ぬことのない、清らかでまばゆい光の風を。
見えない風が身体を吹き抜けて、四肢にひやりとした感覚を与えながら螺旋を描く。
幾許かそうしていただろうか。
ふいに呼吸が楽になった。
全身の緊張をほどいてのろのろと夜空を見上げる。夏の大三角形があった。
「使い方が分かったようだな。お前の力。」
「クロ……」
視線を夜空から大地に向ける。クロがいつになくやさしげな顔つきで当麻を見ていた。
「これでお前は少なくとも伸が『何に苦しんでいるか』を理解することができるし、それらからどうすれば解放できるかの術も得た。」
「そうだな。ありがとう。恩に着る。」
「それでお前はどうするつもりだ?」
当麻は再び夜空を見上げた。けれども、目に映るのは晩夏を彩る星々ではなく、自らに刃を向けて当麻を拒否した伸の姿だった。
「俺が思うに、北辰結界は明日で終わるものではないと思っている。明日で本当に終わってしまうものなら、俺の持ち札の意味がない。」
「持ち札?」
「そうだ。ある人物から託された切り札のようなもんだ。多分、その切り札と伸が俺から離れて行く理由はどこか深いところで繋がっている気がする。だから、俺はこの状況そのものを作り上げている事件を解決して、伸を守る。しばらく伸とは会えないかもしれないが、それで伸が納得するなら、心が落ち着くというのであれば、それでいい。」
「本当にそれでいいのか? もしかしたら本当に伸は戻って来ないかもしれないぞ?」
いたずらっぽくクロが問う。当麻は少し困ったように頭をかいた。
「多分、伸は俺のところに帰ってくると思う。」
「自信家だな。」
「さっき、伸は俺を突き放そうとした。でも、俺にはあいつが救いを求めているようにしか見えなかったんだ。」
お待たせしました。今回はちょっとボリュームありました。でも鬱回ですよね……。苦手だったらすみません! 続きはブログで。

