第34話 鬼門攻防



 二十三日深夜。
 皇居を臨むオフィス街に光はなく、時折、残業を終えたサラリーマンがくたびれた様子で帰路につく姿が伺えるだけだ。東京都千代田区。日本の経済を動かすこの街では、表向きの姿にそぐわない奇妙な言い伝えが信じられている。
 ……決して、窓を開けて『そこ』を見下ろしてはならない。
 背の高い商社ビルに挟まれて、鬱蒼と草木が茂りぽっかりとひらけた空間。夜の闇と建物の陰が重なり、そこだけが不自然に、暗い。
 将門の首塚、として東京都の旧跡に指定されているその場所に千早樹と乃千清美の姿があった。
「そろそろあちらも始まる頃か。」
 首塚の碑を前に、誰に言うともなく零して、千早は遠い目をした。銀鼠の髪がさらさらと夜闇に流れる。見遣ったのは、北東の方角。神田明神の鎮座する場所だ。
「二度目だから、向こうも厳戒態勢でしょうね。」
 口元だけでちらと笑って、清美もそちらを見た。
「今回は大丈夫でしょう。花月のフォローもある。そしてこちらには切り札が。」 
 言ってから、千早は目の前の碑に触れた。今度は視線を、東の方に遣る。大手壕が横たわり、その向こうには、緑に護られた皇居。
「本当に皮肉なものですよ。かつての朝敵の目と鼻の先の鬼門に、こうして首塚がある。そして動かそうとすれば祟るという。将門は朝廷の人間がよほど憎いと見える。ならばその恨み、使わせて頂きますよ。」

 同刻、神田明神。
 闇夜の静寂の帳のあちこちに、仄白い霊気に包まれた浄衣姿の神職が待機している。斎庭だけではない。御社殿左の鳳凰殿や参道入り口の随神門の上にもうっすらと霊気をまとった神職が今か今かとその時を待っている。
 神田明神全体が、土地の結界と人の結界に守られ、過度の緊張に包まれていた。
 そんな彼らを、半ば、他人事のように見守る人影があった。随神門脇にある社務所の前で、彼らは、神社全体に展開する神職達の姿をただ眺めているだけだ。
 幸頭井たち三人と、渡井、そして渡井に呼ばれた当麻たち四人、そして何を思ったか、少年の姿で伸についてきたクロだ。
 結局、陰陽寮と神田明神が手を組むことはなかった。矜持の高い神田明神側が陰陽寮の介入を受け入れるはずもなく、幸頭井を筆頭とする九人は、あくまでも「見学」のためにここに控えている。手出し無用、と到着したその折から言われていた。
 じりじりと時間だけが過ぎる。
 表鬼門を護る神田明神の神職であるから、それなりに霊力を備え鍛えられている者たちばかりではあるが、神社という争いと縁のない静かな場所に奉仕するだけに、実戦経験はほぼ皆無だ。そんな焦燥が、少しずつ、彼らの体力と精神力を蝕んでゆく。
 やがて、真夜中も過ぎ、表通りを走る車の影もまばらになった頃。
 おう、と風が哭いた。
 梅雨の時期に相応しくないからりと乾いた風が、斎庭の木々を揺らし、神職たちの浄衣をさらった。突然の出来事に、誰もが一瞬、目を閉じた、その間に。
「なんと……」
 神職の一人が、瞠目して夜空を見上げた。彼だけではない、その場にいる者すべてが、それに釘付けになった。
 地上の光を反射してうっすらと灰色を帯びたその雨空を背に、それは浮いていた。
 禍々しく朱に燃える面。
 ぎらりと睨む、鋭い金の眼。
 むずと曲げた、口元。
 人に非ざることを誇示するかのような、長く伸びた鼻。
 体をふわりと純白の衣で包み、その背には、夜闇を密に編んで広げたかのような濃い色の翼が二枚、伸びている。
「天狗だ……」
「今度は天狗だと……」
 神職たちのざわめきに、恐怖と苛立ちの色が混じる。
 再び、風が異形の笑い声を乗せて斎庭を荒らした。
 ひとしきり笑い終えてから、それ……天狗は地の底から唸るように言い放つ。
「鬼門守護、ご苦労様です。今日はご神体を頂きに参りました。」
 はははは、と笑い声が続く。その声に導かれるように、また斎庭が風で暴れた。ごうごうと激しい圧力を持って狂う風に、神職たちは足を踏みしめる。
「おいおい、またあいつか?」
 様子を伺っていた「部外者」のうちのひとり、秀が眉間に皺を寄せた。
「先月、銀座で相対したと言っていらした、天狗ですか?」
 やんわりと、斎部が尋ねる。大黒様にも似た笑みを浮かべるその表情に緊張感は全く伺えない。
「おうよ、あいつが、俺のことを……」
 言い止して、秀は黙り込んだ。自らを「鬼」と言った、あの言葉が未だ脳裏から離れない。
 秀の沈黙を当麻が引き継いだ。
「ヤツの本体は花月という十歳くらいの子どもだ。幻術を使い、異界を自在に作り出し妖を操る。正攻法では敵わない。」
「花月……というと、謡曲『花月』の。」
「ああ。」
 斎部の問いに、忌々しげに当麻は応じる。
 そのタイミングで、御社殿の前方に展開する神職たちから悲鳴が上がった。
 声の方へ目を向けると、数人の神職が、ある者は倒れ込み、ある者は膝をついていた。
「何事だ?」
 低く呟く征士の声に応じるように、それは起こった。
 空から轟音とともに風が叩き付けられる。その風に仕込まれているのは、黒闇をを鋭く貫く、銀の短剣。
「剣が降っているのか!?」
 怒気を孕ませて征士は空を見上げる。その目の前でまた、斎庭を強い風と銀の短剣が打ちのめし、数名の神職が膝をつく。
「天狗は剣を降らせるとものの本に書いてあったが、本当なんだな。」
「おい当麻! なに、お前、冷静に観察してんだよっ! なんとかならないのかよっ!」
 つっかかってきた秀を横目に、当麻は後ろに控える幸頭井たちをちらと見た。動じる気配はない。一言も漏らさず、ただ、目の前の事態を見ている。
「今回は俺たちは手出し無用と言われただろ。出る幕はなしだ。仕方ないじゃないか。第一、前回、俺らはヤツに……」
 そこまで言って、当麻は唐突に異質な気配を感じて言葉を止めた。
 降って湧いたように、体格のいい浄衣姿の神職が、数歩先に現れた。
「陰陽寮の方ですな。」
「はい。」
 感情の揺らぎを見せない静かな低音の声に、すかさず応じたのは斎部だ。
「権宮司の矢木と申します。手短に。この状況をどう御覧になられますか。」
「押されていらっしゃいますね。」
「あの天狗をご存知ですか。」
 斎部は応じず、当麻の方を見た。その意味するところを察し、目を細めて当麻が答える。
「一ヶ月くらい前、あいつと戦いました。本性は花月という名の子どもの天狗で……」
 説明を始めた矢先、それまで沈黙を守っていたクロが、皆の後ろからスタスタと歩き出して、神職たちが天狗と相対している斎庭の中央へ向かった。
「ちょっと、クロ!」
 伸が慌ててその後を追う。つられて、残りの三人も足早に二人について行く。
 神職たちが呆然と見守る中、長袖にハーフパンツの姿のクロは斎庭の真中に立つと、ピシリと空を、正確には天狗を指差して、言った。
「おい、お前。」
 まだ声変わりもしていないハイトーンの勝ち気な少年の声に、神職たちはさらに目を丸くして成り行きを見守っている。  
「おや、これは僕のお仲間がいらしたとは。」
「誰が仲間だよ。お前みたいなのと一緒にするな。今なら許してやるから、早々に立ち去れ。」
 子どもとは思えぬ威圧的な物言いで、天狗の朱の面を睨みつける。その瞳に、妖の色が浮かぶ。夜の帳に紛れて隠されてはいたが、間違いなくヒトではない彼の正体に、神職の誰もが気付かない。
「おや、貴方はヒトの側につくのですか。ヒトに見限られて忘れられた、ただの妖だというのに。」
 はははと笑って、天狗は朱の面を自らの手で取った。その下に現れたのは、艶やかな黒髪と白い陶磁器のような肌理の細かい肌の、まだ幼い少年の貌。
「残念だな。俺はただの狐の妖でも化けもんでもないんだよ。」
「霊獣ですか。それとも神使ですか。真に残念ですね。それはヒトが作り出したただの偶像……空虚な願いを込められた妄想でしかないんですよ。あなたの存在は、ただ時間を重ねて来ただけの、化け物です。それよりも、ほら、お耳と尻尾を出してすぐ隣の秋葉原にでも訪れてはいかがです? 人気者になれますよ。」
「ふん。」
 花月の高笑いをクロはつまらなさそうに一蹴して、腕を組んだ。
「ああ、それとも狐は北斗を崇めるといいますからね。貴方が北斗の一つを担う訳ですか。」
「……。」
 クロは応じなかった。否定も肯定もせず、天狗を見上げたままだ。
 伸が、当麻が、征士が、秀が、呆気にとられてクロに見入る。これまで全く想像の余地のなかった選択肢が目の前に放り出されたその驚きを隠せない。
 そんな彼らのことなど気にとめる様子もなく、花月は楽しげに続けた。
「ところで、南方火気の姿がありませんが。」
「ちょいと野暮用でな。欠席だ。」
 ことさら冷静に応じて、当麻は相手の出方を伺う。そんな彼の態度を嘲けるように、ひときわ高い声で笑い放ってから、花月は、手にしていた銀の短剣を迷うことなくすっと征士に向けた。
「ふふ、そちらの貴方が、狩ってしまいましたか。」
「なんのことだ。」
 花月の問いに、低い声で征士は唸る。
「あなたの力は『ヒカリ』つまり『霊狩り』ですね。神の霊(ヒ)を狩り征するものの名を貴方は持っていらっしゃるじゃないですか。」
「な……」
 紫水晶の瞳に、苛烈な光が弾けた。当麻とクロを押しのけて、花月と対峙する。普段は抑揚のない声音が、怒りに強ばる。握った拳が、腰のあたりで震えていた。
「なぜ、私が遼を倒さねばならんのだ!」
 声をあげてから、征士は口元を引き締めた。体中を蝕んでいた不安が、これまで理性で抑えて来た恐怖が、ゆっくりと目覚め始める。痛いほどに、遼の不在が感情という波を揺らす。吉祥寺の駅で謎の結界に捕らえられたときに言われたことが、鮮明に蘇る。これまでは堪えて来た、そのつもりだったものが、花月の言葉で一気に吹き出した。
「落ち着け、征士。秀とのときと同じだ。言霊で、お前は遊ばれているんだ。信じた方が負けだ。」
 征士の肩に、当麻が手を乗せる。
「しかし当麻、こいつがもしかしたら遼を……」
「いいから、落ち着け。」
「征士、落ち着いて。」
 当麻と伸の言葉に、征士の拳の震えが止まる。
「おい、征士、落ち着けよ。お前がそれを信じちまったら、俺はどうなるんだ。」
 不貞腐れるように言って、秀が征士の腕を引っ張った。
 それで目が覚めたとでも言うように、征士は我を取り戻して、顔だけで背後を振り返る。心配そうな仲間の顔を確認して、大きく深呼吸した。己の裡に氾濫する不安を、息をともに吐き出すように。
 征士が落ち着いたのを見計らって、当麻は上空に目を遣った。
 花月が、子どもには似つかわしくない愉悦に満ちた表情でこちらを眺め降ろしている。
 ふと、奇妙な違和感に襲われて、当麻は頭を掻いた。
 ……ヤツの目的がご神体を奪うなり壊すなりすることなら、俺たちにこんなに悠長に構っているのは妙だ。
 そこまで思い至り、当麻は気付いた。
 花月は陽動だ。
 別の鬼が、先日、現れたという鬼の方が、本殿に向かっている。
 ぞわりと、背筋がざわつく。
 天狗と鬼、銀座で彼らは繋がっていたではないか。
 他に誰か気付いてはいないかと、当麻は社務所の前の陰陽寮の者たちを振り返った。神田明神の権宮司はすでに姿を消している。幸頭井を筆頭とする四人は、相変わらず与えられた部外者の持ち場を離れず、斎庭を観察しているようだった。
「どうしたの、当麻?」
 伸に問われた当麻は、そちらに向き直り、今、気付いたことを簡潔にまとめて応じた。
「俺たちは嵌められている可能性がある。花月は、多分、陽動だ。」
「じゃあ、鬼の方が本殿へ?」
「おそらく。」
 当麻の意図するところをすぐに汲み取った伸は、眉根を寄せて表情を硬くした。
 脳裏に、銀座で会った鬼の姿が過る。
 天を狙う二本の角、業火に燃える異形。
 その鬼に首を掴まれ、全身を焼かれた記憶が身体ごと蘇って、小さく俯いた。恐怖に微動する肩を止められない。
 当麻は鬼に会って聞きたいことがあった。銀座の際、何故、伸を狙ったのか。そもそも、彼らの目的は何なのか。
 二人の様子の変化に気付いたのか、渡井が持ち場を離れて五人のもとへやって来た。
「どうかされましたか。」
 問われて当麻は伸に話したことを再度、繰り返した。
「なるほど。その可能性は十分にありますね……。」
 渡井はちらと幸頭井たちを見遣ってから、考え込むように胴着の袂に手を入れて腕を組んだ。
「あちらさんは、それに気付くどころじゃないな。」
 言って当麻は広い斎庭を見遣った。十数人の神職が、夜空の一点を、なす術もなく眺め上げている。
「俺らは部外者だが、俺は鬼に用事がある。ちょっと抜け駆けして本殿の様子を見て来る。俺は陰陽寮の人間じゃないから、あちらさんと揉めたときは、俺の独断行動で止められなかったとでも言ってもらいたい。」
「ちょっと、当麻!」
 隣で伸が声を非難めいた声をあげた。
 渡井はしばらく沈思して、組んでいた腕を解いてから、御社殿左の建物を指差した。
「わかりました。あちらの鳳凰殿の裏を通って、人目につかないように御社殿まで行って下さい。」
「分かった。」
 即答する当麻に、伸は目を丸くして、その腕を引っ張った。
「あの鬼は、いくら当麻でも一人じゃ危ない。僕も行くよ。銀座で会ったのは僕だから。幸頭井さんもそれを確認するために僕らをここに呼んだんだろう?」
「いや、俺一人でいい。ここにいる人数がいきなり減って、あちらさんに気付かれるとやっかいだろう。」
「でも……」
 救いを求めるように、伸が渡井を見る。しかし渡井は、小さく頷いただけだった。
「羽柴さんのおっしゃる通りです。」
「……分かった、君に託すよ。でも気をつけて。」
 言って伸は、当麻の横顔を見上げた。紺藍の瞳に映る強い意志を見て取って、瞼を伏せる。当麻が自分の決意を簡単に曲げることはないと、伸はよく知っていた。
「それでは、これを。」
 渡井が、自分の持っていた弓を渡した。神田明神の方から渡された護身用のものだ。一度、手を伸ばしかけ、束の間、受けとるのを躊躇って、当麻は言った。
「俺にあんたたちみたいな力はないぞ。」
「羽柴さんの得物は弓だと伺いました。これは、古来、鬼を避けると言われる桃の木で作った弓です。弦を鳴らせば、鬼にダメージを与えるといわれています。どうぞ、お守りだと思ってお持ちください。」
「分かった。」
 受けとって、当麻はすっと闇に滲むようにその場を立ち去った。
「……当麻、無理しないで。」
 消えた背中に囁きかけるように、伸は呟く。
 その密かな音を、空を駆け抜ける轟音がかき消した。
 鈍色の空が鳴動している。どぉん、どぉんと、世界を殴りつけるように音が響いている。
 花月がピタリと動きを止めた。背後の御社殿を見下ろして、何かを待っている。
 斎庭の至る所に広がった神職たちは、少しずつ、互いの距離を縮め、近寄り、神経質に言葉を交わし合う。
 ……これ以上、何が起こるのか、と。
 音は止まず、一層激しく世界を叩く。斎庭の木々が振動し、踏んでいる大地が、脆くビリビリと軋む。
 尋常ではない事態に、伸と渡井、残る征士と秀も息を呑み、御社殿を見つめる。
 一度、大きく天地を打ち据えるように音が轟いて。
 御社殿の上空にゆらりと武者の影が蜃気楼のごとく立ち上った。
『我は坂東の新皇なり。』
 声は、割れ鐘のごとく大地から響いて、その場にいる者たちを、圧倒した。皆、体を強ばらせ瞬きも忘れそれをふり仰ぐ。
「将門様だ……」
「平将門だ……」
「御霊が目覚めた……」
 今まで、辛うじて声を控えていた神職たちが、自らの職務を忘れて一様に声をあげた。
 平将門。
 神田明神の祭神の一柱であり、平安時代、関東一帯に勢力を広げ名を馳せた武者。のちの武士の起こりとも言われる。自らを新皇と名乗り、朝廷に歯向かったという理由で討伐される。しかしその祟りは凄まじく、菅原道真、崇徳天皇とともに三大御霊として数えられる。
 遠くから、馬のいななき声が聞こえて来た。多くの蹄が地を蹴る音、鎧や武具が激しくぶつかり合い、せめぎあう音。軍勢があげる鬨の声。大勢のどよもす音。
「おい、こっちに来るぞ……」
 神職の誰かが、そう言った瞬間。
 数えきれぬ多くの音とともに、武者たちの軍勢が斎庭に乗り込んで来た。
 幻影の彼らに実体はなく、その場にいる他の人間をするりと通り抜けて、ただひたすら御社殿上空に揺らぐ平将門に向かって行軍する。
 斎庭のあちこちから、絶叫とも悲鳴ともとれない声があがった。
 この異様な状況に耐えられなくなった一部の神職たちは、覚束ない足取りで神社から逃げ出そうとしていた。
「落ち着け! それでもこの神田明神に仕える者か!」
 御社殿の最前列に陣取っていた宮司は、振り返って喝を入れる。
 そんな地上の遣り取りを、愉快そうに眺めやっていた花月が、ばさり、と一度、背丈の倍ほどはある漆黒の羽根を羽ばたかせて、嘲るように言った。
「本体が動き始めたようだ。お前たちは自分達が何を祀って来たか、ここで思い知るといい。かつて坂東を支配した荒ぶる魂が、たかが人ごときに鎮められる訳がないと知るがいい。」
 軽蔑するような視線をひと時、下の斎庭に向けて、花月は鈍色の空高く飛翔した。
 斎庭が怒号と悲鳴で入り混じる中、それを冷ややかに観察する者たちがいた。社務所前に待機している「部外者」、陰陽寮の三人だ。
「これはやられましたな。首塚の方で何者かが呪法を執り行っているようです。」
 いつもは和やかな斎部の顔に、普段は見せない焦りの色が浮かんでいた。
 幸頭井は、泰然自若とした様を変えぬまま、ずしりと重い声で言う。
「斎部、日知。」
「はい。」
「まだ、完全に復活してはおらぬが……もし、あれを神田の方で処理できなければ、我々で始末する。増援を呼んでおけ。」
 上司の命令に、従わぬ理由はない。斎部と日知が声を揃える。
「わかりました。」


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