毛利伸の憂鬱 4
おやつの時間の人数が一人増えた。
そう、少年姿のクロだ。
増えただけなら問題ない。
問題なのは席順である。
いつもなら伸の隣には必ず当麻が陣取っているのだが、クロはそのタイミングを見計らったかの様に伸の隣の席を奪取する。そこで当麻とクロの間に一悶着が起きるのだ。
そもそも、人間体を得るようになったクロとは一体、何者か。
古代中国においては、瑞獣とされる四つの霊獣がいた。いわく、龍(応龍)、鳳凰、麒麟、霊亀である。瑞兆を現すものとして、現在に至るまで寺社仏閣の彫刻や方々の芸術で活躍している。
これに対し、天の四方を司る霊獣が青龍、朱雀、白虎、玄武となる。風水ブームで一躍知名度をあげた彼らの中に、白炎の親族(?)にあたる白虎がいるのであるから、白炎はずいぶんと歴史があり霊格の高い霊獣なのである。
これに対し、クロは玄狐とは言っても、つまるところ年嵩を経た妖狐が神通力を得た程度の霊獣で、上記八つの霊獣に比べればその霊威や霊獣としての能力は桁違いに低いのだ。ただ「狐」という獣が陰陽道において珍重されたがために、渡井さんがもったいぶっていただけである。
そんな訳で、クロは霊獣といっても白炎のように命をかけて主ために刀を奪う(剣舞卿の回参照)ような聖獣君子ではない。
その性質は狐のように気まぐれでわりと自分本位、好き嫌いは多々有るのである。
上記理由で、同じ霊獣としてクロは白炎を一応尊敬はしているものの、自分が足下に及ばないことくらいは理解しているので、ちょっと微妙である。もちろん、霊獣として先輩の白炎を憧憬もしているし見習いたいし、と思っているが、やはり基本的に生まれが違うので実際にその存在(霊格)に近付くのは無理なのだ。微妙なのはそういう理由である。白炎の方はといえば、同じ霊獣同士、後輩ということで可愛く思っているが、そう思われる事自体、格の違いを見せつけられるようで、クロとしてはちょっと迷惑である。
けれどもその主の遼は割と好きである。
火生土の理が働いているのかどうか分からないが、単に、騙す必要もないくらい真っ直ぐな性格とか、同じ黒髪とかに好感を抱いている。ただ、少年体のクロを見かける度に、アンパンマン体操を教えようとするのでその時だけは若干、苦手だなーと思って逃げてしまう。
騙す必要もないという理由で、同じく秀も割と気に入っている。
まず、同じ土の性である。
それに人間体の時は、弟のように面倒を見てくれるのがクロにとって意外にも心地よく、機嫌がよければおやつも貰える。変に勘ぐったりしないし、細かいところは気にしないというのがクロにとって有り難かった。
逆にはっきりと『苦手』なのがいる。
征士と当麻である。
征士は、第一印象が悪かった。
あの、真実を射貫く鋭い眼光で睨まれた(もちろん征士本人は『見た』だけである)のがクロにとっては自分の正体、つまり霊獣とは言われても彼らの側にいる白炎とは違い、その霊性が全く低い事を見破られた気がしてショックだったのだ。
さらに追い打ちをかけるような事件があった。
ある時、少年の姿でついうとうととソファで眠ってしまった。
が、眠っている間にちょっと気が抜けたようで、ちょろっと尻尾だけ出てしまったのだ。
そのまま起きだしたクロの『尻尾』に、あまり霊感のない遼、秀、当麻は気付かなかったが、伸と征士だけには『尻尾の生えた少年』としてはっきりと目に映ったのだ。
伸の方は、そういうこともあるんだろうね、と何も言わなかった。
ところが征士の方は、そんなクロを捕まえて言ったのである。
「人間なのか狐なのかはっきりしろ!」
あまりのことにびっくりしたクロは、当然、伸に泣きついた。泣きついたといっても嘘泣きである。
「征士に虐められたっ!」
そう泣きつかれた伸は征士を呼び出した。
「あのね、征士。君も大人なんだから、小動物や子供を可愛がってあげるのが普通だろう?」
「いや、しかし、伸、そいつは……。」
狐は人を騙すものだという征士の主張はもちろん伸に通じない。伸の中ではクロは自分に懐いている子供みたいなものだからだ。
それに味をしめたクロは、再度、征士に挑むことにした。
そう、クロにとっては屈辱的だった狐姿の時に睨まれた(何度も言うが、征士は『見た』だけである)その腹いせである。
リビングで一人、本を読んでいる征士に近付いて、じっと睨んでみた。
その気配に気付いた征士は、何か用事があるのかと思いクロを見たが何も言う様子はない。
本気で征士を睨むクロ。
そんなクロを不思議に思って見ているだけの征士。
一分、二分……と過ぎて、やはり根負けしたのはクロの方だった。
「征士の目が怖いよー!!」
と伸に泣きついたのである。もちろん、嘘泣きである。
その後、征士がやはり伸に『大人げないよ』とこっぴどく怒られたのは言うまでもない。
さらに相性が最悪なのは当麻である。
まず、木剋土、という性質からしてクロからすれば当麻は本能的に天敵に等しい。
そして、当麻はやたらと伸にくっついている。それもクロにとっては気にくわない原因の一つである。
全くもって、たった二十数年生きた人間の癖にまるで伸のことを俺の嫁といわんばかりに独占する当麻は、クロにとっては由々しき問題である。何しろ、クロは伸の気が気に入って姿を現したのであるから、伸に甘えて良いのは自分だけであるというのがクロの考えだ。
そういう訳で冒頭のおやつの時間に戻る。
「クロ!! そこの席は俺の席だと何度言ったら分かる!」
「お前が座る席なんてないんだよ! とっととおやつだけもって出てけ!」
全くもって霊獣の欠片もないクロと智将の欠片もない当麻の子供の喧嘩を横目に、伸の憂鬱は増えるばかりだった。
重い話(個人的に)が続いたので突発的に楽しい話が書きたくなりました。少年体クロにまつわるショタ萌えエピソードをまとめてみました。いつもの呟きはブログにて。

